睡蓮の牧歌

古代エジプトが舞台の物語。メイベル・コリンズの手による象徴的なお話です。

5章

 もうここは至聖所ではない。顔に風を感じる。目を開ける。頭上に空があり、その濃く深遠な中に星が光る。私は倒れていた。強い疲労を感じる。だが何千人もの人々の声に起き上がる。叫ぶ声、歌う声が耳を打つ。何だろう?

 私は立つ。祭司たちの円の真ん中に私はいた。十人の高位の祭司たちが取り囲む円である。アグマハドが私の横に立っている。彼は私を見ている。私の目はその顔をじっと見て、そらせなくなった。冷酷な、無情な、魂のないその顔! 私はこの人を恐れていたのか? この外形を、この人間ではない存在を? もう怖くはない。私を取り囲んでいる祭司たちをぐるっと見回す。彼らの顔を読む。彼らは心を奪われ、自己の意識に満ちている。全員がそれぞれ、心から離れないある深い欲望、蛇のように心に抱く報酬への飢えにかみつかれ、喰われている。この人たちを恐れることはもうあり得ない。私は光を見たのだ。強くなったのだ。

 立ち上がる。澄んだ空の下で、川岸に群がる群衆を見回す。と同時に、奇妙な声が聞こえるのがわかった。人々は気が狂ったようになっている。ある者は酒に酔い、ある者は愛に飢え、ある者は完全に興奮して。いくつもの小舟が水面に寄り集まっている。人々はこの舟に乗り、崇拝する女神に供え物を捧げに来たのだ。今夜、彼らが見、聞き、感知した女神に。私が立っている祭りの船は、人々の放り投げる供え物で重くなっている。人々は粗末な舟、いかだの上に立って、我々のほうへそれらを投げ込む。金、銀、宝石、輝く石をちりばめた金の器。アグマハドはそれらを見、その口もとに笑みをのぞかせる。これらの財宝は神殿のものとなるだろうが、アグマハド自身はまるっきり異なる宝石を欲し、それのために働いているのだ。私の魂は突然、無意識に話し出した。もうこれ以上、黙って見ていられなくなったのだ。私は大きな声で話し、人々によく聞くよう言い、その途端、群衆に静寂さが広がった。

 「お聞きなさい、ここにいる女神の崇拝者たちよ。どんな女神を崇拝しているのですか? あなたがたの心に、女神は何とささやいたのか、教えてくれませんか? 心の中を見、もし女神が猛烈な情欲の熱であなたがたを焼き焦がしたなら、それはまことの神ではないと知りなさい! 智慧により守ってくれる真理が、その神にはないからです。お聞きなさい、至聖所で私がこれまで聞いてきた言葉を、そして母なる女神、光の霊からささやかれた言葉を、あなたがたに話しましょう。平和を見つけることができるのは、徳の中、真実の思想の中、真実の行ないの中にだけです。この闇の組織が、真実の女神を取り巻くのにふさわしいでしょうか? 闇の女神の崇拝者たちよ、この戸外の空の下で、酒と激情に酔うのですか? あなたがたはその口で不敬虔な荒々しい言葉を言い、熱狂の歌を歌い、その心に恥ずかしい思いを抱き、すぐに行為へと大胆に飛び込んで行くのですか? いけません! ひざまずき、両手を天に上げ、情け深い霊に問いなさい。我々の智慧の女神に。広い愛の翼をあなたがたの上に広げて覆い、恥知らずなあなたがたを許し、新たな努力をするよう助けてくれる女神に。私の言葉をお聞きなさい。私はその女神に祈るでしょう。輝きを放つ女神を見るために。私の言葉を女神はきっとお聞きになる。女神はたとえあなたが罪を犯そうとも、あなたを愛してくださるのですーー」

 突然、音楽が鳴り出し、何人もの力強い歌声が私の声をかき消す。急に祭司たちが朗々と聖歌を歌い出したのだ。人々は私の言ったことに動揺し、皆ひざまずいていた。今、音楽に酔いしれて、人々は熱烈に聖歌を歌い、その声は荘重な調べとなって空へ上って行く。強い甘い匂いが鼻孔から入り込む。私はその匂いを嫌悪して身をそむけるが、すでに効き目があり、意識が遠くなってゆく。

 「我を忘れているな」とカーメン・バカが言う。

 「頭がおかしいのだ」と別の声が言うーーとても冷たく、とても怒っている声。誰が言っているのかわからないが、それを言ったのはアグマハドであることを私は知っている。

 新しい不思議な勇気で恐れを知らない私は、懸命に彼に返答しようとする。だがもう知覚を麻痺させる香の匂いが効いている。眠っている時のように口がきけない。頭は重くなる。数秒後、眠りに落ちる。

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