睡蓮の牧歌

古代エジプトが舞台の物語。メイベル・コリンズの手による象徴的なお話です。

10章

 「カーメン・バカに伝えよ、そなたの心の欲望を私は知っている、そしてそれは叶う、と。だがそれにはまず、あの運命の言葉を言わなければならない。」

 アグマハドはおじぎをすると向こうへ向き直り、黙って至聖所を後にする。

 また女神と二人きりだ。彼女は近寄って来て、怖ろしい目で私の目をくぎ付けにする。

 じっと見ていると女神は私の前から消えてゆく。そこには金色の光が残り、中にだんだんある形ができてゆく。これまでに見たどんなものよりも美しい。

 木だ。葉をいっぱいにつけているが、葉というよりも柔らかな髪が垂れているかのようだ。それぞれの枝にはたくさんの花が厚い花びらを開き、金色や、派手で華やかな色の鳥たちが飛び交い、燃え立つような花々の間をあちらこちらでさっとかすめる。ついに目がくらんで言う。「この鳥を一羽、僕にちょうだい。この花の中と同じように僕のもとで快適に過ごさせてあげるよ」

 「百羽あげよう。鳥たちはそなたが大好きになり、そなたの口にキスをし、そなたの唇から餌をもらうであろう。後でそなたはこの木と同じような木の生えた庭園を持つことだろう。鳥たちはみな、そなたが好きになる。でもまず私の命令どおりにしなければならないよ。カーメンに言って、至聖所に入って来させよ」

 私は言う。「入りなさい。カーメン・バカ祭司よ、入るのです」

 彼は来た。奥の洞窟の入り口から中に入り立っている。木は消え失せ、私の前に黒い姿が、光るローブをしなだらせ、冷酷な目を光らせている。その目は祭司に据えられている。

 女神はゆっくりと言う。「彼にお言い、その心の飢えは満たされるだろう、と。その者は愛を欲しているのだ――それを手に入れるであろう。神殿の祭司たちは冷たい顔を向け、その者は皆の心が石のように感じられるだろう。そして皆が周りでひざまずくのを見たいと思うであろう。皆がその者を崇め、すすんで虜になるのを。今までのように彼が私のものであることを受け入れるならば、それは実現するだろう。皆の心の欲情を満足させ、その代わりに皆は彼一人を台座に載せて崇めるだろう、私だけのものである彼を。十分にすばらしい褒美であろう?」

 女神はその言葉を強い軽蔑をこめて石に示し、その怖い顔にカーメンの狭く限られた大望をさげすんでいるのが見て取れる。私がその言葉を読み上げるにつれて皮肉な意味合いは消えてゆく。

 カーメンは頭を下げる。その顔に異様な歓喜の輝きが表れる。

 「仰せの通りです」と彼は言う。

 「ではあの運命の言葉を口にせよ!」

 カーメン・バカはひざまずき、頭上高く手で輪をつくる。顔が苦しみの表情に変わる。

 「今より後、すべての人が私を愛しても、私は誰も愛しません!」

 黒い姿はすべり寄り、手をカーメンの頭に触れる。「そなたは私のもの」と女神は言い、背を向ける。その微笑みは暗くて冷たく、顔は北方の凍りつく寒さのようだ。女神がカーメンに教えと導きを与えるつもりであることがわかった。アグマハドに対しては、どちらかと言うと女王がその寵児に話すようだ。重んじると同時に恐れている寵児、強さを持った者に。

 「さあ坊や、やることがあるのだよ」女神は近づき、そう言う。「この本の中に、私の奉仕者となるであろう祭司たちの胸の内が書かれてある。そなたは疲れており、休まねばならない。私はあの者たちのように、そなたを害するような真似はせぬ。私がひいきにするにふさわしい強い男に育ちなさい。さあこの本をかかえて持ってお行き。早朝、起きるとすぐにカーメンが来るだろうから、最初のページを読んで聞かせるのだ。最初の課題を成し遂げられたら、彼は再び早朝にあなたの所へやって来るであろう。そうしたら二番目のページを読んでやるがよい。そのようにして最後まで読み終えなさい。今言ったことをカーメンに伝えて、難しいからとて一時たりともあきらめぬよう言うのだ。困難を乗り越えるたびに彼は力を増し、すべてを成し遂げた後には最高の高みに立っているであろう」

 言われたことをカーメンに伝える。入口に立って両手を胸のところで握り、頭を垂れているので、カーメンの顔は見えない。だが言葉を伝え終わると彼は頭を上げ、「従います」と言う。

 その顔は前に見たような異様な輝きを今も帯びている。

 女神は言う。「彼に行くよう言うのだ。そしてアグマハドにここへ来るよう伝えよ、と」

 その言葉を伝えると、カーメンは静かに出て行く。その身のこなしから、彼の目にはここはすべてが闇であるとわかる。

 しばらくたってアグマハドが入り口のところに立つ。女神は近寄り、手を彼の額に当てる。すぐにそこに王冠が現れる。アグマハドは微笑む。

 「それはそなたのものとなろう」と女神は言い、さらに続ける。「アグマハドにこう言うがよい。それは最も偉大な王冠。ただしこの世で、だ。もっと偉大な王冠があるが彼はそれを戴くことはできぬ。さあ、彼に指示をお出し。あなたを腕で抱き上げ、寝台へ横たえなさい、と。あなたは本をしっかり抱えなさい」

 その言葉をくり返して伝えている間に、女神はそばへ来て私の額に触れる。とても快いけだるさが訪れる。女神の言葉は伝えるそばから、私の唇より立ち消えてゆく。でも二度言い直すことはできず、すべてが薄れてゆく。私は眠ってしまう。

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