睡蓮の牧歌

古代エジプトが舞台の物語。メイベル・コリンズの手による象徴的なお話です。

8章

 部屋へ戻って来ると、若い祭司たちが食事を運んで来る。まだ食べていなかったので空腹である。この食事は申し分ない。食事を運んで来た若い祭司たちは、片方だけひざまずいて給仕する。どうしてそうするのかわからず、不思議に思って見ている。彼らの多くは果物、濃い飲み物、見たこともない繊細な甘い菓子、花などを持って来ていた。とてもたくさんの花々が運んで来られ、私のそばに置かれる。花をいっぱいつけた低木が壁ぎわに置かれる。それを見て喜びの歓声を上げる。同時に、アグマハドがカーテンの陰に立っているのに気づく。彼の目は私を見、冷たく奇妙に微笑む。でももう彼が怖くはない。新たな喜びの心に満たされ、その心は私を強くしたのだ。花々に口づけしながら、花から花へあちこち移動する。花々の香りは部屋じゅうに満ち、濃厚に香る。うれしく、そして誇らしく思う。大理石に塗り込められたように動かず立っているこの冷たい祭司が、もはや怖れることもないと感じるからだ。この大胆不敵の感覚が私の幼い魂から重い苦しみの荷を下ろしてくれた。

 彼はくるりと背を向け去って行く。彼がカーテンの下を向こうへ去ると同時にあの子が私の横にいるのがわかる。

 「ごらんなさい、すごい花でしょう」とあの子が言う。

 「君が持ってきたの?」と驚いて聞く。

 「そう。みんなに、あなたが花を好きだって言ったの。丈夫でよい香りよ。地に生えているの。疲れていないんだったら、外へ出て遊ばない? 知ってる? あの庭園は私たちのもので、ボールもそこにあるのよ。誰か一人はあなたにボールをとっておいてくれてるわ」

 「教えて、なぜ今日は祭司たちは僕にひざまずくのかな」と私は聞く。

 「知らないの?」と彼女。もの珍しそうに私を見ながら言う。「それはあなたが今日、玉座から教えたからよ。その知恵の言葉があの人たちにはわかるけど私たちにはわからないの。でもあなたがすごいごほうびをもらうのを見たわ。これから全部のごほうびをもらうでしょうね」

 私は寝台の上に座り、頭をかかえ込んで、驚嘆したまま彼女を見る。

 「でも自分で知らないうちにどうしてそんなことができるの?」

 「じたばたしないでいればあなたは偉くなれるでしょう。それから知らないでしょうけど全部のごほうびを手に入れるでしょう。静かに、幸せにしていれば、祭司全員からあがめられるわよ。一番すばらしい祭司からもね」

 一瞬、驚きのあまり言葉を失う。それから言う──。

 「君はとても小さいのに、どうして全部知ってるの?」

 笑いながら彼女は言う。「花たちが教えてくれたの。花たちはあなたのお友達よ。私の言ったことは全部、本当よ。さあ、遊びに行きましょう」

 「まだ、待って」と私は答える。頭が熱くて重く、心は彼女の言うことが理解できず、いぶかる思いでいっぱいだ。

 「僕が玉座から教えたなんて、ありえないよ」と言う。

 「教えてたよ! 高位の祭司たちがあなたに厳粛な顔をしておじぎをしてた。あなたが未知の儀式のとりおこない方をあの人たちに教えたからなの。その儀式にはあなたも出ることになってるわ」

 「僕が!」

 「そう。あの人たちに、あなたが儀式で着る服はどうするか、どうやってそれを用意するか、唱える言葉は何かを教えてたわ、あなたが言ったとおりに繰り返してた」

 強い興味をおぼえ彼女を見る。「それでどうしたのか、もっと教えて」と、さらにうながす。

 「あなたはこの世に養われた花々の中で生きることになってるのよ、そしてちょくちょく子供たちと踊るの。もっとたくさん教えてあげることがあったけど、儀式のことは思い出せないわ。でもすぐわかるでしょう。それ今夜だから」

 突然、恐怖に取り乱して寝床から飛び出る。

 「怖がらないで。私がいっしょにいてあげるから。喜んでそうするわ、だって私、神殿の子だから。でもまだ秘密の儀式に出るのを許可されたことがないんだけど」と彼女は笑って言う。

 「君、神殿の子なんだ。でも君の声をみんなは聞こえないよ!」

 「時々、あの人たちは私が見えるの。アグマハドだけはいつも私が見えるの。私、アグマハドのものだから。でも私と話はできないの。私、あなたと話ができるからあなたが好きよ。さあ、外へ行って遊びましょう。庭園の花はこの部屋の花と同じくらいすてきで、ボールもあるよ。さあ、行こう」

 彼女は私の手を取り、静かに出て行く。物思いにふけって、ただ導かれるままについて行く。外の空気は豊かでさわやかだ。花々は生き生きとして、日の光が暖かい。すぐに幸福感で物思いなど忘れてしまう。

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