睡蓮の牧歌

古代エジプトが舞台の物語。メイベル・コリンズの手による象徴的なお話です。

7章

 目が覚めると白い睡蓮の花が手の中にある。その美しさに心は喜びでいっぱいになる。見ると元気づけられ、満足する。あたかも母の腕の中で眠ったかのようで、その花を持つと半ば茶色くなったその花が口もとに近くなり、母がキスしてくれたようだった。どうやってこれを手に入れたのかは不思議ではない。ただその美しさを見て幸せなだけだ。その花は、たった一人の友だちである女神が本当に守ってくれたことを教えてくれるのだから。

 不意に誰かが部屋に入って来る。女の子のようだ。入って来ると言うより、影から出て来るかのように見えた。その子を見つつ寝床に横たわっている。アグマハドが私をこの寝台に運んだのだ。夜の暗い時間帯をどこで、いかにして過ごしたのかほとんどわからないが、私をここまで運んで来たのはアグマハドだと感じた。再びここへ戻って来て良かった。そして私に近づいて来たこの子に会えて嬉しい。女の子は私より幼い。そして日の光のように明るい。近くまで来て立ち止まる。私はその子に手を差し出す。

 「その花をちょうだい」と彼女は言う。

 私はためらう。この花を持っていることで幸せだったが、断ることができない。その微笑みのためと、神殿の中の誰一人としてこれまで私に微笑みかけてくれたことなどなかったためだ。花を渡す。

 「わぁ!」彼女は叫ぶ。「葉っぱに水がついてる!」そして嫌そうに花を放り出す。私は怒って寝台から飛び出し、急いで大切な花を拾おうとする。その子は急にまたそれをひったくると、大声で笑いながら逃げる。全速力で追いかける私。まだ幼い少年にすぎず、怒って断固として負けるまいと追いかけるところも幼さ丸出しだった。私たちは誰もいない大きな部屋部屋を疾走して行く。その子は大きいカーテンを矢のように駆け抜け、私は田舎の少年のすばやさで追いかける。しかし突然、硬い石の壁とおぼしきものに行き当たる。彼女はどうして私から逃げおおせることができたのだろう? すぐ後ろに私が迫っていたのに。激しい怒りの感情で盲目と化し、引き返す。ところが急に黙り込むこととなった。アグマハド祭司が前に立っているのだ。何か悪いことをしただろうか? あり得ない、アグマハドが微笑んでいる。

 「ついておいで」と彼は言う。その言い方がとても優しいので、ついて行くのも怖くない。彼は扉を開く。目の前にあふれんばかりの花の庭園が広がる。生垣で四角く囲まれ、あふれんばかりの花で埋めつくされたこの庭園に、大勢の子供たちが皆あらん限りの速さで走り回っている。私の知らない、複雑な競技のようなものをしているようである。子供たちの数は相当なもので、大変すばやく動いており、始めはとまどったが、ふと子供たちの中に私のあの花を持っている子が見えた。それを服に付けており、私を見てからかうように微笑む。ただちに私は大勢の中へ飛び込む。そしてどういうわけか、すぐにその競技とも踊りともつかぬもののルールに従っているのだった。それが何なのか、まるで知らない。大勢の中で間違わずに動いているが、彼らが何を目標に追いかけているかわからない。あの女の子の姿を目で追い、後を追いかける。とても速くて近づけないが、すぐに私はその競技の動きと騒ぎと陽気な顔また顔と笑い声を楽しんでいる。無数の花の香りにうれしくなり、いくつか花が欲しいと熱烈に思う。これらの花のことを考えて、睡蓮の花のことを忘れてしまった。踊りの輪の迷路を急いで行きながら、踊りが終わったら大輪の花々を手に入れようと心に誓う。たった今、アグマハドもアグマハドの機嫌も恐れていない。たとえこの庭園が彼のものであったとしてもだ。そして突然、百人もの子供たちの楽しげな叫び声がする。

 「あの子が勝った! あの子が勝った!」

 それはボールだった。金色の軽い、とても軽いボールを、遠く空高く私は投げることができた。だが何度空へ投げても高く掲げた手に戻ってくる。他の子供たちの歓声を聞いた時、足元にボールがあるのに気がつく。ただちにボールは私の手中にあるのを知る。近くには今、睡蓮の花を奪ったあの子しかいない。今は睡蓮は彼女の服に付いてはおらず、私ももう忘れている。彼女は微笑み、私も笑い返す。彼女へボールを放る。彼女が投げ返す。庭園の向こうの端からこちらの端へと。

 ふいに澄んだ大きな鐘の音が大気中に鳴り響く。「行きましょう」と彼女。「学校が始まる時間よ、さあ早く」私の手をつかみ、ボールを投げ捨てる。もの欲しそうに目でボールを追う。

 「せっかく僕が取ったのに」

 「もうそれどころじゃないの。別の競技があるのよ」

 手に手を取って走って行く。別の庭園を通って、前に見たことのない大部屋へ入る。さっき一緒に遊んだ子供たちはその部屋にいた。しかももっと大勢になっている。この部屋の空気は重く、気持ちがよい。長い眠りから覚めたばかりだったし、まだ朝が来たばかりだったので私は疲れていなかったが、この部屋に入って来ると疲れを感じ、頭が熱い。

 周りに子供たちの声を聞きながら、すぐに眠ってしまう。目覚めると庭園で聞いた時と同じ叫び声がしている。「あの子が勝った! あの子が勝った!」

 玉座のような所に立つ。――高くそびえる大理石の台座に。そして自分の声が空中に聞こえる。私は話している。子供たちは周りにいる。群がって大理石の台座を取り巻いている。かつてここに連れて来てくれた子が、師がこの台座に立つのだと言っていたのを思い出す。ではなぜここに、我々のような子供がいるのだろう? 見回すと、何とこの部屋は祭司たちでいっぱいだ! 祭司たちは教わる場所に立っている。静かに、動かずに。再び子供たちの叫び声がする。「あの子が勝った! あの子が勝った!」なぜか急に心が乱れて玉座から飛び降りる。下に降り立つと子供たちはもういない。一人も子供は見えないが、私をここに連れてきたあの子だけが見える。あの子は玉座の上に立っており、大はしゃぎで手をたたき笑う。何がそんなにうれしいんだろうと思い、下を見下ろすと、私は白い衣の祭司たちの輪の中に立っている。彼らは額が地につくほどに深くひれ伏している。これはどういう意味なのだろう? わからない。恐怖の中、じっと立ったままでいると、まるで私の思いを読んで答えるかのようにあの子がふいに声を上げる。「あの人たち、あなたを崇拝しているわよ!」

 その言葉よりもっと不思議な別の驚きが降って湧いた。何と彼女の声は私にしか聞こえていないのである。

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