睡蓮の牧歌

古代エジプトが舞台の物語。メイベル・コリンズの手による象徴的なお話です。

7章

翌日、起きて目を開けると、ベッドの周りを美しい方々の円陣が取り囲んでいた。彼らは厳かに私を眺めている。どの顔にも笑みは見られない。しかしその方々から伝わって来る無限の慈悲心を感じて力づけられる。起き上がり、寝台の横にひざまずいた。ある偉大…

6章

目が覚めると、神殿内のかつての私室にいた。少年の時に初めて恐怖に襲われた頃、住んでいた部屋だ。 私はとても疲れており、最初に感じたのは耐えられぬほどの疲労感だった。それは全身をしびれさせるほどであった。もうしばらく横になって、この不快感のこ…

5章

もうここは至聖所ではない。顔に風を感じる。目を開ける。頭上に空があり、その濃く深遠な中に星が光る。私は倒れていた。強い疲労を感じる。だが何千人もの人々の声に起き上がる。叫ぶ声、歌う声が耳を打つ。何だろう? 私は立つ。祭司たちの円の真ん中に私…

4章

川の両岸に大群衆が、はっきりと見える。彼らにわからない光が降り注いでいるからだ。それは彼らの見ている星明かりとは違う、天国からではない私の目から生じた光の明るさなのだ。私には彼らの心が見えるーー体ではなく、彼ら自身が見える。私の従者たちが…

3章

船が滑るように川を下っていると、急に深い沈黙を破って歌が聞こえる。船をこぐ祭司たちが歌っているのだ。すべての船から聖歌を歌う声がする。そして薄暗い中でも大きな動きが見える。人々がひざまずいたのだ。だが人々は黙っている。彼らは祭司たちの歌う…

『睡蓮の牧歌』はどのようにして書かれたか

『睡蓮の牧歌』はメイベル・コリンズにより書かれましたが、書いた時の状況について著者は、『センサの物語』という題の解説の中で、次のように言っています。(以下、本文より一部抜粋) ーーー 『睡蓮の牧歌』の中で不思議な、神秘的な技法で描かれたセン…

2章

この時から、私の人生の過ぎた日々ほどには正確に説明できない時を過ごすこととなる。それは私の経験した、感情に似たものに曇らされ、ベールで覆われたぼんやりとした時間だった。さらにそれらの感情は一つに合わさり、全く同一のものとなった。日々、快楽…

第二部 1章

ここは神殿の庭園。大きな木が深い影を落とす真下で、私は草の上に横になっている。疲れきっている。一晩中、至聖所の前で暗闇の霊のメッセージを祭司たちに話して聞かせていたのである。暖かい空気の中でウトウトし、不思議にも悲しみでいっぱいになって目…

11章

目が覚めると昼の光が燦々と降り注いでいる。ぐっすりとよく眠ったものだ。花でいっぱいの私の部屋は、まるで庭園だ。目は喜んで花から花へとさまようが、すぐにある物体が照らし出され目線がくぎ付けになる。部屋の真ん中でひざまずく人の姿だ。一人の祭司…

10章

「カーメン・バカに伝えよ、そなたの心の欲望を私は知っている、そしてそれは叶う、と。だがそれにはまず、あの運命の言葉を言わなければならない。」 アグマハドはおじぎをすると向こうへ向き直り、黙って至聖所を後にする。 また女神と二人きりだ。彼女は…

9章

今は夜。眠く、満ち足りている。甘く香る空気の中、あちこち走り回って、楽しく幸せだったからだ。夕方ずっと花に囲まれた寝台で眠った。花々のおかげで部屋はよい香りがただよい、私は奇妙な夢を見た。夢の中でどの花も笑った顔になり、笑う花々の魔法のよ…

8章

部屋へ戻って来ると、若い祭司たちが食事を運んで来る。まだ食べていなかったので空腹である。この食事は申し分ない。食事を運んで来た若い祭司たちは、片方だけひざまずいて給仕する。どうしてそうするのかわからず、不思議に思って見ている。彼らの多くは…

7章

目が覚めると白い睡蓮の花が手の中にある。その美しさに心は喜びでいっぱいになる。見ると元気づけられ、満足する。あたかも母の腕の中で眠ったかのようで、その花を持つと半ば茶色くなったその花が口もとに近くなり、母がキスしてくれたようだった。どうや…

6章

「何かお望みかな?」男ははっきりと、しかし低い声で言う。 驚いて彼を見る。服からして修道士のようだが、私の望みを満たせるかのように言っている――そしてただの召使いのような話し方ではない。 「食事はしたところなの。何も望みはないよ――この部屋を自…

5章

連れて来られたのは、祭司たちが朝食をとっている大広間だった。今はもうそこにはほとんど人がいない。しかしアグマハドとカーメンは窓のそばで、ひそひそ声で話し続けている。その間、二人の修道士が私をテーブルへ案内し、油たっぷりのケーキと果物とミル…

4章

目が覚めて、体が冷たい露に覆われ手足が死んだように感じる。私はどうすることもできずに横たわっている。ここはどこだろう。 辺りは静寂な暗闇で、せいぜい孤独な静けさだけが好ましい。すぐに心はきのうの日を一年のごとくにした出来事を回顧しはじめる。…

3章

寝台に横になる。疲れた手足にとても心地よい柔らかさだ。慣れない環境に置かれていたにもかかわらず、私はすぐに深い眠りに落ちた。完全な休息という束の間のぜいたくの中で、若さゆえの健康と信頼感があらゆる新しい境遇を忘れさせた。遠からず、同じ小部…

2章

「何の用だな?」と、その人は門扉越しに私たちを見ながら不平そうに尋ねる。「あっしは今朝、果物を調理場へ届けて貯蔵させたところだ。それに今日はあんたがたにくれてやる花はもうないよ。今日これから摘む分はぜんぶ明日の祈祷用だからな」 「果物も花も…

第一部 1章

それはまだ、しなやかに長いあごひげを生やす以前の幼い頃。私は祭司の見習いを始めるために神殿の門をくぐる。 私の両親は街はずれで羊飼いをしていた。母が私を神殿の門のところへ連れて行くまでは、街の城壁内に入ったことはなかった。その日は街のお祭り…

プロローグ

いかにも私は孤独だった。大勢の中でたった独り、たくさんの同志たちの中で孤立していた。孤独だった。それは知識ある神殿の仲間たちの中で私だけが、知識と教える能力の両方を兼ね備えていたからだった。門のところで信者たちに教えた。神殿に宿る支配力に…

序文

これから始まるのは、いつの世もすべての人々に語られてきた物語である。人の低級な性質、罪に堕落する悲劇である。内なる霊の贖罪の代償としてもたらされた苦難であり、最後の犠牲的行為で神格化を成し遂げ、人類に恩恵を与える……そんな物語なのである。

扉のページ

睡蓮の牧歌 メイベル・コリンズ この作品をインスピレーションによって完成に導いた本当の著者に捧げる